灰かぶり姫 -spinoff-
次の日になってレストランに母親と行くと、すでに席に座った美由紀の母親の姿が目に映った。



「あれ?美由紀ちゃんは?」



すかさず俺の母親がそう訊ねれば、美由紀の母親は少し困った顔をしながら零す。



「実はねぇ…あの子今朝になって行かんとか言い出したんよ…色々説得したんやけどあかんくてなぁ。もう予約の時間も近づいてるし、仕方ないから置いてきたんやけど…」



自分の所為だとすぐにわかった。


本気で言ったわけじゃなかった。


ただ、最後の最後まで自分は特別なのだと、思いたかっただけだ。



「おばちゃん、家の鍵貸して」


「え?」


「俺、行ってくるから」



その言葉に美由紀の母親は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔になって鍵を渡してくれた。


俺がすでに忘れかけている美由紀の笑顔もこんな風だっただろうか。
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