灰かぶり姫 -spinoff-
涙がようやく枯れた頃、祖母の待つ家に向かった。



「雪ちゃん、おかえり…って…アンタどうしたん?!」


「あー、はは…ちょっと感動物の映画観に行っとってな」



適当に誤魔化したものの、祖母は心配そうな視線を崩してはくれなかった。



「雪ちゃん、ごめんなぁ…」


「何が?」


「せめて、あともう少しこの家売るんが遅かったらアンタをここに住まわせる事も出来たんやけど…」



その気遣いだけで十分だった。


引越が決まった時、祖父母のこの家に住まわせてほしいと両親に頼みこんだ俺。


だけど、その時にはこの家はもう売りに出されていたのだと知った。


今の家じゃ祖父母は段差や階段を登るのがキツく、正味な話し1階部分しか使えていない。


それでも祖母は毎日掃除をする為に階段を登り降りしなければいけないのだという。


なかなかの高齢で掃除をするだけでも結構な労力なのにそこに階段の登り降りが加えられる。


体の負担が大きいにも関わらず、家を改築する程の資金はない。


そこで2人が考えたのはこの家を売って、マンションに移り住む事だった。


そして何かあった時の事を考えて常時医者が滞在しているというシルバーマンションを探したらしい。


目星をつけたマンションはどこも人気で大体が建つ前からすでに契約はいっぱいだった。


そんな2人がようやく契約を取る事の出来たマンションは大阪からは離れた土地だった。




家を売る話しが俺の父親に回ってきたのはすでに家が売りに出されていてからだった。


そして、そのしばらく後に俺に回ってきた。


改築の金なんて俺の父親が出せばいいのにと思った。


2人の息子でもあるんだから。


現に父親もそう提案をした。


だけど、頑固な祖父は「息子にそんな真似をさせたくない」だとか何とか言ったらしい。


一度言い出したら聞かない祖父を父親がたしなめられるハズもなく、結局祖父母は家を売る事を断念する事はなかったのだ。









< 43 / 85 >

この作品をシェア

pagetop