灰かぶり姫 -spinoff-
「………俺、野沢ちゃんの事好きになれたらよかったのに」



顔を上げてそう言えば野沢ちゃんは笑いながら言った。



「駄目だよ、私なんかじゃ。雪ちゃんにそんな顔させたり思い出して泣かせる事はきっと出来ないもん」



その言葉にどれほど自分がまだ美由紀を好きでいるのかを思い知らされてしまう。



「雪ちゃん気持ち伝えて後悔してる?」



ゆっくりと首を横に振った。


伝えなければずっと逃げたままだった。


伝えた今、更に美由紀が恋しい。


だけど好きだと伝えた事を後悔なんてしていない。


ただ、恋しくて仕方ないだけだ。



「あのね、無理に忘れようとしなくていいと思う。好きだった期間が長いんだから急に忘れるなんて無理だよ。人間の気持ちなんだから「こうしなきゃいけない」なんて思ってその通りに出来るものじゃないでしょ?」



すんなりと心に入りこむ言葉。


きっとその通りなのだろうと思った。


本当は誰かにこう言ってもらいたかったのかもしれない。


淋しかった事、気付いてもらいたかったのかもしれない。



野沢ちゃんを好きになれたらいいのに。



この時、本気でそう思えたんだ。
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