屍都市
…人間の体温の温もり、頼もしい腕。

やっと落ち着いたのか、子供はおとなしくなって秀一の顔を丸い瞳で見上げる。

「…おじさん誰?」

「おじ…」

まだ二十代なんだけどな…。

軽いショックを受けつつ秀一は微笑む。

「俺はお前の姿を見かけて、ここまで追っかけてきたんだ」

「お化けじゃないの?」

「ああ。お化けじゃない。お前の事食べたりしないよ」

「……」

一人前に気を張り詰めさせて、ここまで逃避行を続けてきたのだろう。

子供は、ほぅっ…と溜息をついた。

「お前、お父さんかお母さんはどうした?」

「お父さんはいないよ。お母さんはお仕事行ってて…僕お家で留守番してたの。そしたらいっぱいお化けが家に来たから…逃げてきたの」

この男児は当然の事ながら大人よりも小柄だ。

ゾンビ達を掻い潜って、家から脱出する事も可能だったのだろう。

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