屍都市
秀一は警棒片手に周囲を見回す。

幸い近くにゾンビの姿は見受けられない。

この子を落ち着かせる意味も含めて、少し休息をとってもいいだろう。

手近な所にあるベンチに二人腰掛け、呼吸を整えながら話す。

…子供が手にしていたのは人形。

日曜の朝早くにやっている特撮ヒーローか何かのものだ。

「それ、好きなのか?」

幼い頃、自分も見ていたのを思い出しながら秀一が言う。

「うん」

子供は初めて満面の笑みを浮かべた。

「もうすぐヒーローが助けに来てくれて、街のお化けみんなやっつけて、マ…お母さんや僕を守ってくれるの」

「そうか」

子供はいいな。

こんな状況下でも希望を捨てない。

そんな子供のそばにいると、何の根拠もなく秀一も勇気付けられてしまう。

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