屍都市
「ここの避難所で炊き出しの手伝いをしていたの。だけど怪我人も沢山避難してくるようになって…」

幸羽は理子を抱き起こしながら言う。

「寄生虫の事は、ここにいるみんなに話したわ。だけど『怪我人を見捨てるつもりか』ってみんなに聞き入れてもらえなくて…私も寄生虫摘出を試みたりはしたんだけど、摘出する人数よりもゾンビ化する人数の方が圧倒的に多くて…」

幸羽の悲しげな横顔を見ればわかる。

医療に携わる者として、人命を優先させるのは当然の事。

幸羽は、いつ避難所にゾンビが蔓延するかわからない恐怖と戦いながら、それでもここでゾンビ化を食い止める為に摘出を試みていたのだ。

「さ、立てる?」

理子に手を貸すものの。

「痛っ!」

右脚を踏ん張ると、理子は顔を顰める。

酷く挫いているようだ。

「相当痛めてるみたいね…手当てしてあげるわ。保健室まで頑張れる?」

「はい…」

幸羽の手を借り、理子はゆっくりと校舎の廊下を歩いた。

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