屍都市
酷い臭いだ。

口元を覆ったまま、天野はゾンビ達の手を振り払いながら通りを駆け抜ける。

これならウチの店のトイレで深呼吸した方がまだマシだ。

ホストやキャバ嬢が愛用するコロンや香水と、死体が腐敗し始めた臭いとが混ざり合って、こみ上げそうな悪臭に変わっている。

勘弁してくれよ。

もう繁華街にまともな奴は一人もいないのか?

ウチの店の連中は一人も生きてねぇのか?

視線を彷徨わせながら走る。

見慣れた街並みが、まるで別の場所に見えた。

別の街?

そんな生易しいものじゃない。

まるで冥土が地獄だった。

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