屍都市
「こっちから逃げられるかもしれない」

新しい煙草を口に咥え、火を点けながら聡が言う。

「来いよ、心花」

彼が手招きするが。

「私はいい。国道を行く」

心花は首を横に振った。

下水道が汚いからとか、そんな理由で拒んだ訳じゃない。

隠れてコソコソ逃げるようで、何だか気が乗らなかっただけだ。

「そうか」

聡もまた強制はしない。

心花の判断を尊重する。

年上とはいえ、上から目線で彼女を見下さない聡に、心花は好感を覚えていた。

「じゃあここまでだな」

紫煙を吐きながら薄く笑む聡。

「ああ」

心花も頷く。

「無事でいろよ」

「お前もな」

二人は躊躇う事なくお互いに背を向け、自分の選んだ道を走り始めた。

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