屍都市
…幼稚園の頃、一度だけ泥だらけなって帰って来た事があった。

話を聞くと、父親がいない事を友達に馬鹿にされたのだそうだ。

「僕にはママがいるから寂しくなんかないやい!」

そう言って友達と取っ組み合いの喧嘩をしたのだと、雄大は語った。

純はベソをかく雄大を抱き締めたのを覚えている。

この子は強い子だ。

本当は父親に甘えたいに違いない。

同年代の他の子達と同じように、父親とキャッチボールしたり、遊びに連れて行ってもらったりしたいに違いない。

しかし純に心配をかけまいと、絶対にその事は口にしない。

だから大丈夫。

雄大は強い子だから、もう少し我慢しててくれる。

私が工事現場に行ってから、家に迎えに行っても、必ず待っていてくれる筈…。

< 82 / 241 >

この作品をシェア

pagetop