とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
その瞳は光がなく、正気ではない事がわかった。
『…操られてますね…』
『「そのようだ。哀れな…」』
俺はそう言うと風を起こしながら漆黒の6枚の羽根を出した。
そして音も無く近づくと、すぅ…と人差し指を美鈴の額に付けた。
『「フォカロルとの契約を解除しろ。」』
「…なんですって?」
『「証を持っているだろう?出せ。」』
「いやよ!
…忍みたいに…私だって…
…忍がいなければ…私だって!」
俺は翡翠色の瞳を細めるて「醜い」と嘆いた。
『「その醜い心では忍のようにはなれぬ。」』
「なっ…!?」
『「お前には光が見えない。
このままでは利用されるのが関の山だ。」』
悔しそうな表情の美鈴を冷たく見下ろして俺は話し続けた。
『「人間は悪魔を都合良く使っているつもりみたいだが…
見返りなく“力”を貸すはずがあるまい。
…気付いていないのだな…」』
次第に見開かれていく目を見据えた。
『「都合良く使われているのは人間の方だ。」』
美鈴が両膝をガクッと着くと俺が触れていた額が黒い渦巻き、何かが現れた。
俺はその渦を右手で掴んだ。
が、渦はそのまま膨張し俺の腕を覆った。
「右京!!」
『「大丈夫だ。問題ない」』
腕を覆っていた黒い渦は次第に霧のように消えた。
『「ハニエル…後は頼む」』
『御意』
ハニエルは光を放ちながら気を失って倒れた美鈴を抱きかかえた。
心配そうに見つめる忍に「大丈夫ですよ」と微笑むと光の中に消えて行った。