とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
俺は忍に近寄り「心配ない」と言うと忍は振り返った。
「ハニエルが記憶を消して自宅に戻すだろう。」
「…そう…」
複雑な表情になった忍は俯き、そう答えた。
俺は忍を抱き締めた。
「忍は何も気にしなくていい。」
「…美鈴…私を憎んでたの?」
「あれは“憎しみ”じゃなくて“嫉妬”だよ。
お前が羨ましかったんだな…」
「…私が美鈴をあんな風にしたの!?」
「違う。忍じゃない“誰か”だ。
完全に操られてた。」
「…ホント?」
「あぁ。忍は何も悪くない。
だってお前は…」
俺はそこまで言うと忍の頬を手で包み優しく微笑だ。
「お前は俺の“女神”だから」
忍は涙を浮かべながら笑うと俺の首に抱き付きキスをした。
そして耳元で「ありがとう」と小さく言った。
俺はそれに「あぁ」と答えて抱き返した。
「さぁ、戻ろう!
みんなが待ってる。」
「うん。…?それなに?」
忍は俺の握られた右手を指差した。
そっと開くと水色の石が付いたリングピアスが握られていた。
銀色のリングに装飾彫りが施された、珍しいものだった。
「綺麗…」
「アクアマリンだな」
少し考えて俺は忍の耳にそのピアスを付けた。
「似合ってる。」
「貰っていいの?」
「ん。御守り。
俺が傍に居れない時、お前を守るように…」
忍は照れたように笑った。
俺が差し出した手を握り返した忍が「怪我したの!?」と驚いた。
見ると右腕にバングル状に痣が浮き上がっていた。
「…これは“刻印”だ…
ふふ…フォカロルめ」
“刻印”と“石”は契約の証…
アイツは自分の意思で俺という召還者を選んだって事か。
「またヘンなヤツに好かれたみたい…」
「えっ!?」
まぁいい…預かってやろう…
ミカエルもフォカロルが天界に戻ったら困るみたいだしな…
ひとり納得して忍と一緒にみんなの待つ海岸に戻ったのだった。