とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
後日開店前の誰もいない店でガクから仕事について説明を受けた。
ウェイターと言ってもカウンター内でドリンク類を作って渡すバーテンらしい。
ガクが言うには「カウンター内はフロアを一望出来る」からいいそうだ。
確かに3段高い位置にカウンターがある為、フロアは隅まで見渡せそうだ。
「普段は俺がカウンター内に居るが、居ない時はゴウとジンヤが手伝ってる。
黒崎は来れる時来てくれればいい。
あ~あとは騒ぎが起きた時な?
乱闘続きになったら客が減って困る。」
「都合良く来れればいいんだが…
努力するよ。」
その日から週の半分くらいをaxelで過ごした。
大した騒ぎも起きず仕事にも慣れて来た頃、見慣れない客が来店した。
数人の男と、隣にメイクのやたら濃い女を連れたその人物に常連客が緊張の色を見せた。
ガクはその日店にいなく、代わりにゴウがカウンターに入っていた。
ゴウは俺に「うちのチームのトップだ」と小声で教えてくれた。
sevenのトップ…名前なんだっけ?
以前どこかで聞いた気がするんだが…
グラスを拭きながらそんな事を考えていると、その男はこっちに歩いて来るのが見えた。
「見ねぇ顔だな…新人か?」
「最近バイトで入った黒崎です。」
ゴウに紹介され「どうも」と短く言うとジロリ睨むような目つきで見られた。
…なんだ?
「ハーフか?」
「さぁ…」
俺はハーフかどうかも分からなかったので、そう答えるとその男はあからさまに俺を睨んだ。
「てめーナメてんのか?」
「いえ別に。」
「いけ好かないヤツだな…
俺を誰だと思ってんだ?」
「sevenのトップ?」
「そうだ。
つー事はこの店のトップだ。」
「いやいや、この店のトップはガクですよ」
俺は吹き出しながら言った。
隣にいたゴウの顔色がだんだん蒼白になるのが分かった。
「お前こっち来いや…」
俺はふぅ…と溜め息を吐くとカウンターを軽く飛び越えた。