とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
師範はほろ酔いで上機嫌な様子で喋り続けた。
「ワシの一番の夢はな~
お前と忍の子どもを抱く事じゃ…」
その言葉に俺は驚いて一瞬固まった。
「…じじぃ酔ってるのか?」
「おぉ、いい気分じゃ!
酒が入ってるから気にするな」
「そうだな…」
「忍の相手はお前以外考えられん。
お前なら忍を大事にしてくれるじゃろう。
だが、今はまだ早い!
ワシが生きてるうちはまだだ!」
「じじぃ…言ってる事めちゃくちゃだぞ…」
俺は笑いながらビールに口を付けた。
師範は「気にするな」と言いながら笑った。
「…だからな~お前が戻るまで、ワシは死ねないんじゃ」
「…師範はただじゃ死なねーから安心しろ。
いつになるかわかんねーけど、必ず戻って師範の夢叶えてやるから…」
そう言うと師範は笑った。
それから小一時間師範は同じ話を繰り返し、酔いつぶれて居間のテーブルに突っ伏した。
「…ったく…」
師範の夢の話はちょっと照れくさかったが、酒のせいで本音が聞けたような気がして嬉しかった。
俺と忍の子供か…
かわいいだろうな…
普通の人間だったなら叶う夢かもしれない。
でも、俺はその夢を叶えてあげられるのだろうか…
俺は師範を担いで布団に運ぶと居間を片付けながら考えた。
「…師範の夢…いいな…」
師範の夢は俺の夢なんだと思った。
「…俺も死ねないよ、師範…」
そんな独り言を言いながら風呂に向かった。