とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
目で「打っこい」と言う師範に頷いて俺が打ち込むと軽く払われた。
すかさず二打目三打目を打ち込んでも流された。
それはタカユキと同じ模範的な動きだからだ。
俺は突いた木刀を斬り上げた。
だが師範はそれすら軽く後ろに退いてかわすと木刀を下ろした。
「みんなわかるか?右京の動きとタカユキの動きの違いが。」
見学していた門下生達はうーんと考え込んだ。
「基本は大事だ。でもそれだけじゃ駄目。
応用が必要なんじゃ。」
俺も師範に頷いて付け加えた。
「タカはもっと独創的な応用を身につけろ。」
「はい!ありがとうございました!」
稽古が終わってからもタカユキは道場に居残って一人練習をしているようだった。
道場の外にある水道で顔を洗いながら帰っていく門下生に手を振ってからタカユキの様子を盗み見た。
さっきの俺の動きを真似ているのか…
「突きから…斬り上げ…
…意外に難しい…」
「ぷ…それはまだ身体が出来てないからだよ。」
「うっ…右京先生!」
独り言を聞かれて恥ずかしかったみたいだが、気にせずタカユキに近付くと腕を掴んだ。
「…まだ細い…毎日腕立て100を3セット追加!」
「ええ~!?」
「お前は真面目だな。」
「俺も右京先生みたいになれるかな…」
「俺みたくなるなよ…タカはタカでいいだろ。
さ、そろそろ帰れ。俺も出掛けるぞ。」
「は~い。腕立て100を3セットしたら帰るよ。」
そう言うタカユキの頭をクシャッと撫でると道場を後にした。