とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
アスタロトの消えた闇を見つめて、ふぅ…と息を吐いた。
「アスタロトひとりで良かった…」
しかもあの様子じゃ、ひとりで行動していたのだろう。
手下が居たら俺ひとりじゃどうにもならなかった。
アスタロトの強い妖気に当てられて気分が悪い。
忍の部屋に戻ると窓辺に足をかけた時、正面にある鏡に映った自分の姿が目に入った。
「ひでーな…これじゃ確かに悪魔じゃねぇか…」
ボソッと呟いて鏡から目を逸らし、“右京”に戻った。
ベットに横たわる忍の傍に膝をつくとそっと髪を撫でた。
首に出来た痣に胸が締め付けられた。
「…本当にごめん…」
忍の体を抱きしめながら涙が零れ落ちた。
「…泣かないで…右京…」
かすれたような小さな声に顔を上げると、優しい瞳で俺に微笑む忍がいた。
「私は大丈夫だよ…だから泣かないで…」
「…大丈夫な訳ねーだろ…こんな…」
こんな痣まであるのに…
それでも忍は「大丈夫」と繰り返し、俺の頬を少し冷たい手のひらで包んだ。
「…あの人…私から出てってくれなかったの…」
「ツラいなら喋らなくていいから…」
忍はちょっと顔をしかめながら首を振った。
「私、頼んだの…お願いだから右京を苦しめないでって…
そしたら…苦しめてるのは私だって…」
そう話しながら忍はポロポロと涙を零した。
「忍が俺を苦しめる訳ないだろ!!」
「ホント?」
「ああ…お前は俺の支えなんだ。
愛してるよ…誰よりも…」
忍は黙って泣きながら目を閉じた。