とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
しばらく無言で風の音を聞きながら絶景を眺める。
忍は静かに涙を流した。
「…景色見て感動すると本当に涙出るんだね…」
「初めてコレを見た時、忍にも見せたいって思ったんだ…」
「羨ましいな~…右京はいつもこんな景色を見てるのね…」
「絶景をこうやって眺める余裕はないけどな。」
「そうね…」
ちょっと身震いをして寒そうな忍を抱きしめると、4枚の漆黒の翼で包み込んだ。
「あったかい…」
「良かった…でもそろそろ帰ろ。風邪引く。」
「もう少しだけ…」
俺の羽根を撫でながら見上げてそう言った。
その少し潤んだ瞳が綺麗で…愛おしい…
忍の艶のある茶髪に頬を寄せる。
「…やっぱりダメ。帰ろう!」
「えええ!?」
不満そうな忍を無視して羽ばたくと家に向かった。
自宅の上空から舞い降りてベランダに着地すると、静かに忍を下ろした。
「空を飛ぶのって気持ちいい!楽しかった~!」
「でも寒かったろ?」
「ちょっとだけね。
…ねぇ、右京…」
「ん?」
「お願いがあるの。」
忍は躊躇いがちに一拍おいてから「あのね」と言った。
「なんだよ、早く言えよ。」
「…右京が見たいの。」
「…意味がわからない…」
「ウソ!しらばっくれる気!?」
「…嫌いなんだ…アレは…」
「そか…ごめん…わがまま言って。」
部屋に入ろうてする忍の腕をとっさに掴んだ。