とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
そっとスケジュール帳に羽根を戻してカバンに仕舞うと時計に目を落とした。
「私もそろそろ行かないと!」
書きかけのレポートを束ねてクリップで留めると、それを抱えて走り出した。
講堂の真ん中辺りに座り、講義に耳を傾けながらレポートの続きを書いていた。
隣に座っていた人がそれを覗いた。
「“悪魔学における堕天使の…”って凄い内容だな…」
「見ないでくれる?」
「あ~ごめん。
君、いつもこの席だね。」
「ええ。一番いい席よ。」
「…それ、彼氏からのプレゼント?」
男は私の左手の薬指を指して聞いた。
「彼氏っていうのかな…」
「何?うまくいってないの?」
ちょっと嬉しそうな表情になった隣の男に吹き出した。
「なんか勘違いしてない?」
「え?」
「これは…婚約指輪よ。」
そう言って微笑むと、予鈴がなった。
いけない!今日こそは…!!
教授が丁度講堂を出て行くのが見えた。
「教授!!」
私は走って教授を追いかけた。
突然立ち止まった教授に思い切りぶつかり、よろめきながら肩で息をした。
「ああ…黒崎くんか。レポート出来たのかい?」
「まだ途中なんですけど、見てもらってもよろしいでしょうか?」
「ほっほっほ…熱心でいいことだ。
ついて来たまえ。」
白髪頭の老人はサンタクロースのような優しい笑みを浮かべて私を促した。
部屋につくと教授は私のレポートに目を通した。
その間に部屋の隅にあるポットでお茶を入れてそっと教授の机に置いた。
「ほぉ…面白い内容だね。
非常に興味深い。」
「ありがとうございます!」
「君は3年だったね。
進路は決めたのかい?
これだけのレポートが書けるなら…どうだね、私の助手になるって言うのは。」
かなりレポートの評価がいいらしく、教授から有り難い提案を受け私は内心ガッツポーズを取った。