I LOVE YOU
『…奈々?』
聞こえた声は男性のものだった。
「…もしもし…」
言った瞬間、全ての音が一瞬にして消えたように感じられた。お互い長い沈黙ができる。けど、最初にそれを破ったのは「佐野」だった。
『君、誰…?』
その声は怒っている訳ではなく、本当に誰なのかを知りたがっている声だった。
「奈々の幼なじみの、薫といいます…」
『薫君…、俺は佐野です。…ところで、どうして君が奈々の携帯に出てるんだ…?』
「すいません…俺が勝手にとったんです…」
『悪いけど、奈々に代わってもらえないかな』
「奈々は今は居ません」
きっぱりと告げるとまた、沈黙ができた。
「佐野さん…」
今度は俺が沈黙を破った。
「今から俺と会ってくれませんか?」
少し間が空いて、わかった、と返ってきた。待ち合わせ場所は俺の家の近くにある喫茶店。電話を切ると、俺は壁に立て掛けていたダウンジャケットを着て、奈々には少し出掛けてくる、と言ったが返事は返ってこなかった。俺はそのまま様子を見ていたがのちに家を出た。