I LOVE YOU
奈々は暴れた。何度も俺の胸板を叩き、距離をとろうと手を突っぱねる。どんなに奈々が体を動かしても回した腕を離さなかった。
『ガリッ』
鎖骨辺りに痛みが走り、俺は小さく唸った。
「…!!」
俺の声で奈々も気付き、暴れるのを止めた。俺も腕の力を緩めて、痛みの場所を確認する。
奈々の爪で引っ掻かれた傷は、浅かったが流れ出た血はまだ止まりそうになかった。
「ご、ごめん…!!」
血相変えた奈々は手当てをしようと立ち上がるが、俺はすかさず彼女の腕を取り、もう一度自分の元へ引き寄せた。
「行くな…」
「薫、血が…!!」
「いいから…」
ぎゅっ、と腕に力を込める。
「強がんなよ…」
奈々の耳元で囁く。
「お前、また悪い夢見たから起きたんじゃないのか…?」
「俺の前では弱いとこ見せろよ…」
腕を解いて体を離す。
「奈々…」
名前を呼んでこちらを見上げる奈々の顔に、そっと手を当てる。
「好きだ」
ずっと気づかなかった気持ち。いや、もしかしたら気づいていても、知らない振りをしていたのかもしれない。
奈々を傷つけるのが嫌で、俺じゃ彼女の空いた穴を埋めてやる自信がなくて、『幼なじみ』という位置に逃げていた。
けれど少しずつ、もう、そんなことどうでもよくなってきた。俺は奈々が好きだ。守りたいんだ。