華と月
蓮の池の前に着いた二人。
池の前には、意外にも人は少なく閑散としていた。
その理由は、池の水は氷っていて蓮の花が、いや蕾すら見えなかったからだ。

その為、見る人は少なかったのだ。

「今年は、咲かないかな?」
と、ハヤトが言うと
葵は、疑問に思った事をハヤトに聞く。

「あのー…どうして
通常、夏に咲く蓮が
この冬の時期に咲くの?」

「あれ…?言ってなかったか?
こっちの世界では、四季と言うのは関係ないんだ。
そうだな、四季で例えるならここ月の国は、冬
砂の国は、秋
夢の国は、夏
華の国は、春
って言ったところかな。
それで、何故夏の花がここでも咲くかと言うと
何年かに一度、こうして
いつの間にか咲いてあるんだ。
そして、この蓮は50年に一度咲く事が発見された。
寒い地に咲くはずのない花は、ここじゃ珍しいからな」

「そう…だったんですね」

「…もう帰ろう
寒くなってきた」

「…そうですね」

二人が、背を向け帰ろうとした時ー…

『…って』

『待って…ください』

弱々しく聞こえた声は、しっかりと葵たちに届いた。

「え…?」
葵たちは、その声のする方向に向いた。

『良かった…私の声が聞こえるのですね』

だが、その声が聞こえても姿は見えず
「あの、あなたは?
どこにいるの…?」

『…ワタクシは、あなたの目の前にいます
蓮の花です』

「え…!?」

『どうか、驚かないでください
ワタクシは、今年で命が尽きます…
でもその前に、ワタクシの声を聞いてくれる者が現れる事を、ずっと願っていました。』

「それは、どうして…?」

『ワタクシの命が尽きる事を知らせて欲しい…からです
ワタクシが咲いてから、人々はワタクシを大事にしてくださりました。
だけど…もうワタクシの命は終わる。
だから、ありがとうと伝えて欲しいのです』

「そんな…!あなたを…
あなたはそれでいいの…?」

『ええ…命あるものはいつか尽き
その命は、いつかまた巡ります
だから、哀しむ事はないのです。
だから、伝えてくれませんか
ありがとう、とラキアに…
そして、ワタクシの命が尽きるのは夜中の12時です
ワタクシを一番大切にしてくれた、ラキアにどうか伝えてください』

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