改訂版・時間よ、止まれ。
「出発するのは、8月30日だから。でもこのケガもあるし、引っ越し準備もあるから、補習には顔出せないと思う」
「ホントに、もう無理なの…?だって、携帯があるし……」
すると、優祐がゆっくりと顔を上げた。
「でも簡単には会えない距離だろ?俺はサッカー続けたいからバイトもできないし、さおりに会うための金を作ることもできない」
「私が行くから!バイトする」
「無茶言うなよ。行くまでに時間もかかるし、会えたとしても月に1回とかだぞ?さおりにそんな苦労、かけさせたくねーし」
「遠距離で続いているカップルなんて、たくさんいるじゃない」
「……俺はこれ以上、さおりを苦しめたくない」
「え…?」
優祐のポツリとつぶやいた言葉の意味が分からなかった。
聞き直そうとしたけど、優祐は静かにフルフルと首を振りながら、またうつむいてしまった。
「ごめん……」
「ねえ…、じゃあここで私達、別れるの…?」
昨日まで楽しかったのに…
どうして今日、こんなことになってしまったんだろう?
何が悪かったの?
私が悪い?
優祐が悪い?
それともただの運だと言って諦めるしかないの…?
「さおり、もう一つの約束、忘れてない…?」
「もう一つの約束…?」
私が腕で軽く涙をぬぐうと、優祐はゆっくりとその頭を上げた。
次に私の瞳に映った優祐の表情は、ひどく穏やかに笑って見えた。