改訂版・時間よ、止まれ。
「…さおり?」
あっ、優祐の声だ。
私はゆっくり目を開けて、声のした方に振り返った。
その視線の先には、もうすっかり絆創膏とガーゼが取れた優祐が立っていた。
「優祐」
「あ、やっぱり。…浴衣なんだな。……すげーよく似合ってる」
「ありがとう。元気だった?…って、何かこんな質問もおかしいよね」
「ははは。いやでも、確かにそうだよな。俺達が決めたことだけどさ、やっぱ寂しかった?」
「寂しいに決まってるじゃん」
「じゃあ今日はその分楽しもーぜ」
そう言って優祐は、私の右手を取った。
久しぶりの優祐の体温に、私の鼓動は少しずつドキドキ速くなっていった。
「行こう。もう屋台とか結構出てるみたいだぜ。花火は……、7時半からだっけ?」
「うん。私、たこ焼きと焼きそばとイカ焼きと……」
「食べ過ぎだろ、それ」
「いいの!早く行こう!」
優祐は私の食欲にあきれながらも笑ってくれた。
そんな優祐の笑顔に、私も自然と笑みがこぼれた。
…こうやって二人で笑い合うこと、まだできるんだね。
手をつないで笑いながら夏祭りの会場に向かう私達を見て、きっと誰も、今日別れるカップルなんて思わないと思う。
刻一刻と、確実に別れの時は近付いている。
だけど、私は決めたから。
優祐と、笑顔で別れる。
優祐を、笑顔で見送る。
優祐もそう思ったのかもしれないけど、私も優祐には、私の笑顔だけ覚えていてほしい。
市川くんの話を聞いたその日から、私も夏祭りのデートを前向きに考えるようになったんだ。