改訂版・時間よ、止まれ。

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「ああ、生徒手帳届けに来てくれた人のことか」






私が電車の中で中原くんにさっきのことを説明すると、中原くんはようやく腑に落ちたような顔になった。






「うん。もしかしたら優祐かもしれないんじゃないかって話になって…」



「ああ…、ちょっと井上さんには残念な話かもしれないけど、拾ったのは届けに来てくれた人の友達だよ」



「友達?」






すると座席に座る私の前でつり輪を持って立っていた中原くんは、私の左隣で赤いメッシュの入った前髪をいじりながら座っていたサンタの腕をぐいっと引っ張って席を立たせた。






そして、近くで杖をついて、パイプにしがみつくように立っていたおばあさんを誘導して、サンタがいた席に座らせた。









…こんな親切が自然にできる人って、なかなかいないよね。






こんなことを隣でされたら、ますます思ってしまう。





なんでこんなにいい人を、私は振ってしまったんだろう……って。









「あ、さっきの続きだけど。俺に届けに来てくれた人、『友達が拾った』って言ってたんだ。今その人は電話してるから、自分が届けに来たって言ってたよ」



「そうだったんだ…」



「俺が井上さんを呼び止めようとして、とっさに井上さんの名前を叫んだだろ?拾ったやつはそれで俺の顔を覚えていて、俺に渡しておけばとりあえず渡してもらえるだろうと思ったらしい」



「え…?」





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