改訂版・時間よ、止まれ。
一瞬、心臓が飛び跳ねた。
男子に手を握られるなんて、初めての事態だったから。
やっぱり新井は男子らしく、手が私よりも大きくて厚い。
そのまま私は新井におぶられた。
ますます信じられない状態で、どうしたらいいのか分からない。
ただ、男子の背中はこんなにあったかいんだな…って、
そんな風にぼんやり思っただけで。
あとは会話なんてできるわけがなくて、私は新井におぶられるままだった。
そしてそのまま、逃げるエリアの外側にあった芝生へと連れてこられた。
「…ここでいっか。下ろすぞ」
「……重いでしょ?私」
「何言ってんだよ?別にそんな苦じゃなかったけど」
「…ごめん、缶蹴りの途中だったのに」
何か急に新井が変わった気がした。
いつもだったら「井上すげー重いからダイエットしろよ」とか憎まれ口叩いてくるクセに。
いきなりそんな優しい態度見せられたら、私だってしおらしくなるしかないじゃない。
「消毒液つけるぞ。我慢しろよ」
「…っつぅ」
足のケガに、消毒液がしみていく。
まるで、私の中に新井の優しさがしみわたっていくように…。
しみた痛みを我慢していると、新井は手早く傷口に絆創膏を貼り、さらに包帯まで巻いてくれた。
「…これで大丈夫だな。缶蹴りに戻れそうか?」
「うっ、うん…」
新井が救急道具を片付け始めた。
しばらく、私達の間にぽっかりと沈黙ができた。
いつも私と新井、二人揃うと、うるさいくらい言い合っていたのに、こんな静かなのは逆に居心地が悪い感じがする。
何か……、何か言わなきゃ。