改訂版・時間よ、止まれ。
「あの…、新井!」
「ん?どした?」
新井は救急箱に目を向けたまま、私に応じた。
「な、なんで……?」
確かあの時、鬼がいなくなったチャンスだったはずなのに、私のことなんて構わずに缶を蹴りに行けば良かったのに……。
私、さっき新井のこと無視したんだよ?
それなのに何でそんな私のことなんて助けたの?
言葉が、詰まる。
あの時新井を無視してしまった負い目を感じて…
後悔と、恥ずかしさと。
色々言いたい事、聞きたい事があったはずなのに、口から言葉が上手く出てこなくて、うつむいてしまった。
「ああ…」
まだカタカタと物音が聞こえてきたから、おそらく救急箱を片付けながら、新井は口を開いた。
「井上もそうだったかもしれないけど、俺も缶を蹴りに行こうと思ってて鬼の様子を探ってた。そしたら目の前で井上がキレーにこけてるだろ?」
「うっ…」
「あんなコケ方されたら、助ける他ないじゃないか」
「なんか…、ゴメン」
私だって、あんなところでコケるなんて、人生で一番の不覚だよ…!
「でもさ、缶蹴りサボれて良かったかもしんない」
「えっ!?何で?」
「ほら、あっち。見てみろよ」
「あっち…?」