改訂版・時間よ、止まれ。
彼女が私達の側を離れて、新井の方に近付いて行った時、ようやく華恵が正気に戻った。
「ね、ね。あの子、誰?見たことないんだけど」
「さぁ…。私も知らないなぁ」
華恵の質問に答えながらも、私は彼女の動きから目が離せなかった。
彼女の細くて長い足が、新井の手前で止まった。
そして……
「優祐!久しぶり♪」
彼女は男子達とバカ話で盛り上がっていた新井に向かって、先程の『天使の微笑み』を見せ、確かにそう言った。
ゆ………っ、ゆうすけ……!?
私の顔も固まってたと思うけど、隣にいた華恵は口をあんぐりと開けたまま固まっていた。
…もちろん、新井のフルネームを知らないってわけじゃない。
だけど、新井の下の名前を呼び捨てにするような女子、正直言って見たことなかったから。
新井は笑顔の彼女を、最初は不審そうな顔で眺めていたけど、何秒か後に急に何か思い出したような表情になり、みるみる笑顔になっていった。
「おう!由歌梨じゃん。マジで久しぶりじゃねぇ?元気だったか?」
「うん!昨日あの家に戻ったの。一番に優祐に会いたくて、来ちゃった♪」
…新井と彼女は知り合い?
そうとしか思えないやり取り。
そして、二人にしか分からないような会話を楽しそうに繰り広げ始めた。
私の身体の中を、かつてない程の不安が駆け巡り始める。
これは完全な、私の勘でしかないんだけど。
とても、とても──
嫌な予感がする。