改訂版・時間よ、止まれ。
「井上っ!ちょっと話あるんだけど!」
「新井!?なんでこんなトコにいるの?」
新井は私の目の前で足を止め、前かがみで両手をひざに当てたまま、ゼーハー息を切らしていた。
「ねえ、新井…何?話って」
近くで見る新井は、ものすごい汗で髪の毛まで濡れていた。
こんなになるまであの試合、頑張ってたんだ…。
「あの…あのさぁ……」
新井は息を整えながら、ゆっくりと私の顔を見つめてきた。
「井上の声、届いた。応援サンキュー」
「え!?うそ…」
あんな、絶対かき消されて、新井にまで届くわけないと思っていた私の声援が…?
聞こえてたの…、新井。
「ウソじゃねーよ。俺、井上の応援があったから勝てた。それ言いたくて……」
そんなこと言うために、わざわざ観客席まで来てくれたの…?
信じられない。
だけど、とても嬉しい。
まだ息が切れてるけど、新井はゆっくりと微笑んでくれた。
いつもケンカしてる時とかに見せる、イジワルな笑顔じゃない。
本当に、試合が終わってすがすがしい、爽やかな笑顔だった。
私のためだけに、こんな笑顔を見せてくれた新井。
嬉しさとドキドキが、一緒にこみ上げてきて、どうしたらいいのかさえ分からないくらいだった。
だけど、どうしてだろう?
素直にそんな気持ちを伝えられないよ。