禁断の恋はじめます
おっかなびっくり打っていた注射も
ずいぶんうまくなった。
患者さんが

「池端さんのは痛くない。」

そう言ってもらうのがうれしい。


この間はなかなか針が
入らなかった患者さんの
へルプに入って


先生も手こずった針は
私がさした血管にすっと入っていった。


涙目の患者さんが


「ありがとう。」といった。


何か一つ人より優れたものがあれば
人間って自信がついて
たくましくなれるんだと思った。


今までは自信のあるものなんて
一つもなかった。
家ではお姫様のように
わがまま言い放題だけど外に出ると
全然ダメな子になって


いつもなんでもできる
啓吾の背中に隠れていた。


今は、もうそんな啓吾もいない。



私たちと過ごしてきた啓吾だけを
啓吾だと思ってほしい。


啓吾の願いが…痛い……。
どうしているんだろう。
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