お隣りのあなた。

ななちゃんはチラリ、とわたしを見た後にゆっくりと窓の格子に手を置いた。わたしもつづいてななちゃんの横に立つ。

「なずなは、鳥なんだよ」
「…ななちゃんは人間だよ。鳥じゃない」

切なげに窓の外を見上げるななちゃんに、胸の辺りが苦しくなる。ななちゃんは小さく頭を振って、もう1度、「なずなは鳥なの」、呟く。

「ここは鳥かご」

窓の格子を小さな手でさすりながらななちゃんは言った。黙ってわたしはそれを聞く。

「飼い主は、まま。それとぱぱ。なずなはペットの鳥」
「……」
「鳥かごは窮屈だよ。窮屈、だよ菜乃子ちゃん」

ななちゃんが泣きそうだったのに、わたしは掛けてあげられる言葉が思い浮かばなくて押し黙る。ななちゃんはわたしを見て、微かに微笑んで続けた。

「だから旅に出たい。じゆうになりたい」

今思えば、ななちゃんの言ったことはあまりにも歳相応ではない。5歳児は、普通こんなこと言わない。
だけど幼いわたしにはななちゃんが言っていることがよく理解出来なかった。

ななちゃんは鳥で、ななちゃんのぱぱとままは人間で。
広くて綺麗なこのななちゃんちを窮屈だという。
だから、旅に出たい、じゆうになりたいのだという。
わたしには難しくて、
よく理解出来なかったのだ。

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