お隣りのあなた。
「へ?なん」
「なんでそーなるんだよ!」
タケルが自転車のハンドルにガン、と自ら頭をぶつけた。わたしは痛くはないが、勝手に「いた!」といつの間にか発していた。
「だ、だって…」
カナが困惑気味にタケルを見遣ったあと、わたしを指さした。
そこでようやくわたしはタケルにしがみついたままだった事にようやく気付いた。
「!!カ、カナ、これは違うんだよ!たまたま、たまたま!タケルと途中で会って、それにわたしが好きなのは、ぶちょ…別の人だから!」
「俺だって…俺だって、こんなやつじゃなくて、……あーあーもおー!」
「ちょっと、こんなやつって失礼じゃないの!?」
「ウ、うん。わかった。わかったから、タケルと菜乃子は落ち着いた方がいいよ、うん」
カナに言われてわたしはタケルと顔を見合わせて、そして逸らす。「ありがと」と短い礼を言っていそいそと自転車を降りた。「…、おう」タケルも短い返事を返した後に、早々と駐輪場に向かって自転車を漕ぎ出した。
ああ、やっぱり今日はななちゃんの夢をみたせいでこんな事になってしまったのか…。
家を出た時の前向きな自分はどこへやら。直ぐにいつもの自分に戻っていた。