お隣りのあなた。


「……っ!」

わたしは思わずサッ、と慌てて目を逸らす。そしてもう1度チラリと目を向けると、窓に寄り掛かりながらこちらを見ていた。周りに人気が無いので、わたし達を見ているのは確実だ。

「…菜乃子顔色悪いよ。大丈夫?」
「え?そう、かな」

どうやらカナは気付いていないらしい。「保健室、行く?」と心配そうにわたしを覗き込んだ。わたしは首を横に振る。

「んー、大丈夫だよ。無理になったら保健室行くから」
「そう?無理しないでね」
「うん。ごめんね心配かけちゃって」
「どうかしたのか?」

駐輪場に自転車を置いて来たタケルがこちらの様子に気付いたようで小走りにやってきた。

「なんか菜乃子調子悪いみたいで」
「んあ?自転車で酔ったのか?」
「…そうかも」

そんなわけあるはず無いが、とりあえず同意してこの場しのぎする。

「おいおい、まじかよ!」「タケルあんたどんな自転車の漕ぎ方すれば酔うのよ」「ちょっとスピード出しただけだってば」「ちょっとって…」「そんなスピードは出してないと、思う」

タケルとカナが言い合っているのを余所にわたしは再び上を見上げる。

見上げた先にはもう誰も居なかった。


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