お隣りのあなた。

先生はわたわたと焦りながら白衣のポケットから1枚のハンカチを取り出し、わたしの手に握らせた。上手く身体に力が入らなくて、結局ハンカチはわたしの手の平の上に置かれただけに終わった。直も涙はハラハラと流れ落ち、またひとつ、ひとつ、と涙はシーツに広がってどこか虚しくなった。

「ね、どうしたの?何か辛いこととかあったの?」
「……い、え。大丈夫です…」

声は掠れて、自分でも聞き取りにくい声だと思った。それに加えて声量も大して出なかったから、先生もわたしの言葉を聞き取れなかったようで、「そ、う?」曖昧なイントネーションでとりあえずの返事を返してきた。

「ほら、涙拭いて。ね?」

その台詞にわたしはうなだれる。それを頷いたと解釈した先生は満足そうに1度頷いて、わたしの横のベッド、つまりはあの男子生徒が居たベッドを確認するように目を向けて、小さくため息を吐いた。

「もう……」

呆れたような、幼子に軽い注意をするような風に先生は呟いた。

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