お隣りのあなた。
 

「藤田君また抜け出して…」
「…フ、ジタ…?」
「あら菜乃子さん、藤田君と知り合い?」
「いえ…。始めて聞く苗字だと、思って」

藤田、藤田、藤田。忘れないように頭の中で何回か反復した。本当に、始めて聞いた苗字で口に出すつもりなんてなかった。

もしかして、先生は「もしかして、」軽く青ざめた顔でわたしをバッ、と勢いよく振り向いた。

「藤田君に何かされて、それで…!」
「ち、違っ、違います」

そうだと言えば、そうだけどここで肯定してしまうと先生は良からぬ方向に解釈しそうで怖かった。先生は若干疑うような目でわたしを見ながら、しかしどこか安心したような口調で、
「本当に?」と念を押すように聞いてきた。わたしは頷く。

「ホントに、もうあの子いつもこうなのよね」

困ったわ、と苦笑いしながら先生は言った。
“いつも”ということはかなりの頻度で保健室をあの男子生徒が、―――藤田、君が使用しているのが解る。

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