お隣りのあなた。
 

その日は結局、そのあとの授業を受けずに帰る事になった。その後、わたしの気分も顔色も優れる事が無かったからだ。

頭の中で藤田、というあの切れ長の、ニヤリ、と笑った顔が、

『沢谷なずなは、』

繰り返してあの台詞が渦巻いた。

『あやまれ!!』

同時にタケルに幼稚園の頃に言われた同じような台詞に激しく言い返す昔の自分もぼんやりと思い出した。

あの時と同じ台詞を言い返せなかったのは、時間が流れたせい、なのだろうか。ななちゃんが本気で、“死んでいる”と思わせる月日が流れているせいなのか。


それが違うとしたら、


「…違うとしたら、何…?」


誰も居ない道を歩きながら、自分にしか聞こえないくらいの小声で一人つぶやいた。
誰も答えてくれない事に少し安心するのと同時に、寂しくなって。

「っ…意味、わかんない…!」


ねえ、ななちゃん。
本当に、本当にななちゃんは、


「………っ」


流れた涙は、アスファルトに落ちて、しばらくして消えた。

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