お隣りのあなた。
 

美術室へ向かう筈の足は、小走りに保健室へ向かっていた。
バクバクと心臓が激しく動く。いる、いない、いる、いない、…居てほしい、居なくていい。矛盾した気持ちが胸を交差する。

「っはぁ…はぁ…」

気付けば激しい運動をした訳でもないのに、息切れをしていた。緊張のせいなのだろうか。
目の前にした保健室の扉。居る、居ない。手をかけて、ゆっくりとドアを開けた。

「………、」

室内は静かだった。誰も居ないかのように。
開いた窓から穏やかな風が流れ込み、パタパタと白いカーテンを小さく揺らしている。室内の音はただそれだけだった。

居ない、のだろうか。

ぐるりと見回して、わたしの視線はベッドに止まる。1台だけ、カーテンが閉まっている。つまり、中に人が居るという事だ。

知らない人かもしれない。気分が悪くて休んでるのかもしれない。

だけど、もしかしたら。

静かにベッドに向かって、ベッドのカーテンを掴む。隙間を作ってそこから覗けば確認できる。端から見たらただの変態かもしれないけれど…。

少しだけカーテンを動かす。居るか、居ないか。

「……っ」
< 79 / 112 >

この作品をシェア

pagetop