有料散歩
光沢のある御影石。
美しく掘られた文字。
この下に、明花が眠る。
最後の一瞬まで、明花は幸せだったと呟き、先に逝く事を詫びた。
「明花…、ゆきに逢いたかったろうなぁ。」
御影石を磨きながら、ぽそりと呟く。
光沢のある石がますます輝き、陽に煌めく。
「おじいちゃん、お線香、点いたよ。」
「ああ、ありがとうな。」
二人で線香をあげ手を合わせる。
牡丹が、大きな花弁を揺らしている。
急に、ふ、と日が陰った。
雲に隠れたのだと思った芳郎が、何気なく空を仰ぐと、雲ひとつない晴天だ。
影は、芳郎の背中に突き刺すような視線をおくる男の、人影だった。
男は無言でその場に膝をつく。
はらはらと涙が零れる瞳を見開いたまま、芳郎を通り越し、墓を見据えている。
明花を悼んでの涙なのは、聞かずとも分かった。
「マー…、」
たった一言。
零れた単語。
芳郎はこの男が何者か悟った。