有料散歩
第九章*懺悔録
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春樹の意識が思い出から解放された時、途方もない時間をくぐり抜けたにもかかわらず、あたりはまだ明るく日が照っていた。
眩しい太陽が真南にあって、燦々と降り注ぐ。
ゆっくりと瞬きをして、魂と体の融合を確かめる。
「春樹くん、おかえり。」
神妙な面持ちで、夏が春樹を待っていた。
実際には、ずっと側に付いていたが、春樹が目を開けるまで心配でたまらなかった。
春樹が思い出に沈んで、この三次元の現世に戻るまでの時間。
ほんの10分足らず。
「夏、くん…、まだ、何も聞かないで…」
空を仰ぎ見て、春樹は拳を固く絞る。
細い肩が、小さく揺れている。
「…わかった。じゃあ俺、昼飯作るから。…それ、止まったらおいで。」
返事を待たずに夏はその場を後にした。
嗚咽を堪えるのは、心臓に良くない。
春樹は慎重に呼吸を整えながら、しばらくその場に留まった。
春の日差しが春樹の頬を乾かし、柔らかな風が呼吸を助ける。
春樹はいつの間にか気持ちを整えるのが上手になった。
無理をして気持ちを押し止め我慢するのではなく、思い切り解放して寄り添うのだ。
気ままに思える自我は、案外素直で従順。
昼食後、三人はリビングテーブルを囲み集う。話し合う事と言えば、ひとつしかない。
「さてと、じゃあ午前中の報告。牡丹、見つけたよ。」
夏があっさりと言い放つ。
「えっ!どこで?!」
食らいついたのはゆきだ。
「東側の畑。」
「それで?咲いてた?!」
「いや、まだ。」
しゅんとうなだれるゆきを目の端で捕らえつつ、夏に向かって春樹が口を開いた。
「牡丹のとこ、案内して。」