有料散歩
一緒に散歩をしよう、と夏が言ったかと思うとあれよという間に玄関の外。
春樹は、まだ肌寒いからと上着を着せられ、
なにもない、いや木々しかない山の中をゆっくりと歩いていた。
なぜだかこの一帯には広葉樹しかなく、まだ葉を付けない木々を仰げば、薄青の空が眩しかった。
足元は腐葉土で柔らかい。
歩くと幾層にも重なっているだろう落ち葉が、しゃくしゃくと渇いたような、それでいて湿ったような音を出す。
「ああ、春樹くん、見てみ。」
夏が指差す方を仰ぐと枝の間に窪みがあった。
口に人差し指を当てる夏にそっと近づく。
「あっ!」
窪みの間から小さなリスが顔をだしていた。
こちらに気づいたらしいリスは一瞬固まり、警戒しながら頭を引っ込める。
春樹は少し頬を紅潮させて夏を見た。
「僕、野生のリスなんて初めて見た!」
はしゃぐようにリスの入っていった窪みを見上げる春樹の背中を
「ふぅん…」
と、にんまり笑って夏は見ていた。