有料散歩
「ゆきちゃんの、おばあちゃん。」
「は?」
「の、写真。」
「ああ、」
「と、骨。」
「ええっ?!」
春樹に度肝を抜かれるとは思わなかった。
「なんっ…?!」
「送るつもりだったんだ。中国に。」
「は?」
思い出を見ていない夏にはさっぱりだった。
春樹も内容をまだ話していないのだから、当たり前だが。
「ちょっ…、順序!順序良く話して?」
「じゃあ、下で、ゆきちゃんにも聞いてもらおう?」
「春樹くんがそうしたいならかまわないよ。」
「うん、全部話す。」
封筒と日記を煎餅の缶にしまい、春樹はそのずしりとしたものを抱える。
土くれは綺麗に拭き取られ、血の染みた着物の切れ端も底に畳んで入れてあった。
リビングでは、ケーキを食べて満足し、ソファにもたれるゆきがいる。
もうすぐ念願の牡丹が咲くこともあって、纏う雰囲気は柔らかい。
「ゆきちゃん、おいしかった?」
「うん、やっぱり夏はお料理の天才ね!」
にっこりと微笑んで返事するゆきの前に、春樹がそっと缶を置く。
ひらべったい長方形の、煎餅の缶。
「おせんべ?」
目の前に出されたのだから、当然のように目に映る。
「缶だけね。」
夏が言う。
「何が入ってるの?」
「開けてみて。」
春樹が促し、ゆきが迷わず蓋を持ち上げた。
何年も土の中で眠っていた、独特のにおいが微かに鼻につく。
「…本?」
分厚いそれに手を伸ばし、ゆきが躊躇ったのを見てとった春樹。
ゆきが触れるより先に、手に持った。
「おじいちゃんの日記だよ。」
「え?」
「あと、これ…、」
かさかさと封筒を開き、中身をテーブルの中央に置いた。
「……。」
「わぁ…、」
それを見て、夏とゆきはまったく違う反応をする。
言葉を失うゆき。
両手を顔の横で開いて、おどけたような夏。
「この人、ゆきちゃん、そっくりじゃん!」
ゆきがそのまま歳を重ねたような人。
「…おばあちゃん…、」
そう、おばあちゃん。
明花、だ。