有料散歩
「…ははっ。」
渇いた笑いが込み上げた。
「何を笑ってる?!」
空に向かって昇って行った芳郎の笑い声に、男は厳しい顔で食いつく。
「ああ、いや…、」
このまま我が子の手にかけられるのも悪くない。
そう思ったのだ。
それでこの子の気が晴れるのならば。一瞬の、解放を与えられるのならば。
けれどもそれは、散々苦しみを押し付けてきた我が子に、更に重しを乗せる結果になりはしないだろうか。
「私を、殺したいか?」
だからそのまま、聞いた。
すると男は、目一杯首を振る。
芳郎と同じ色の髪、肌の色。
同じ輝きの、瞳。
総てを使って否定した。
「…そうじゃない。同じ苦しみを与えたいだけだ。」
それから、と言葉を切って、
「マーを、…母を、返してほしい…。」
芳郎の意識はそこで途切れた。
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「…あたし、」
おじいちゃんの日記と照らし合わせながら、春樹は順序を付けて話した。
ゆきは驚いたり、哀しんだり、色々な顔をした。
夏はだまって聞いていた。
「…あたし、覚えてる。」
春樹が息継ぎのため言葉を切ったとき、ゆきが口を挟んだ。
「ううん、思い出したわ。」
膝に置いた自分の握り拳を見つめて、息を飲む。
「なんで、忘れてたのかな…、」
「何を?」
春樹が尋ね、夏も同じような顔をゆきに向ける。
「…あの、お墓でのこと。」
「うん。」
「あたし、自分がなんて醜いんだろうって思ったの。…まだ小さかったから、意味なんて解らなかったけどね、自分が嫌いになりそうだった。」
「どうして?」
「綺麗…、と思っちゃったの。」
「綺麗?」
ゆきがゆっくりと顔を上げれば、春樹の長い睫毛が揺れていた。
「綺麗な、真っ赤な、牡丹。」