有料散歩



「…ははっ。」


渇いた笑いが込み上げた。

「何を笑ってる?!」


空に向かって昇って行った芳郎の笑い声に、男は厳しい顔で食いつく。


「ああ、いや…、」

このまま我が子の手にかけられるのも悪くない。

そう思ったのだ。

それでこの子の気が晴れるのならば。一瞬の、解放を与えられるのならば。

けれどもそれは、散々苦しみを押し付けてきた我が子に、更に重しを乗せる結果になりはしないだろうか。


「私を、殺したいか?」


だからそのまま、聞いた。


すると男は、目一杯首を振る。

芳郎と同じ色の髪、肌の色。

同じ輝きの、瞳。

総てを使って否定した。


「…そうじゃない。同じ苦しみを与えたいだけだ。」

それから、と言葉を切って、


「マーを、…母を、返してほしい…。」




芳郎の意識はそこで途切れた。







*************






「…あたし、」


おじいちゃんの日記と照らし合わせながら、春樹は順序を付けて話した。

ゆきは驚いたり、哀しんだり、色々な顔をした。


夏はだまって聞いていた。


「…あたし、覚えてる。」


春樹が息継ぎのため言葉を切ったとき、ゆきが口を挟んだ。


「ううん、思い出したわ。」


膝に置いた自分の握り拳を見つめて、息を飲む。


「なんで、忘れてたのかな…、」

「何を?」

春樹が尋ね、夏も同じような顔をゆきに向ける。


「…あの、お墓でのこと。」

「うん。」


「あたし、自分がなんて醜いんだろうって思ったの。…まだ小さかったから、意味なんて解らなかったけどね、自分が嫌いになりそうだった。」

「どうして?」

「綺麗…、と思っちゃったの。」


「綺麗?」



ゆきがゆっくりと顔を上げれば、春樹の長い睫毛が揺れていた。






「綺麗な、真っ赤な、牡丹。」





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