有料散歩
ああ、少しずつ、溶けていく。
蒸発し、気化し、昇っていく。
春樹に出来ることは一つしかなかった。
「思い出した?…君の、叔父さんにあたる人のことも。」
「叔父さん?」
「おじいちゃんの、息子のことだよ。ゆきちゃんのお父さんの兄弟ってこと。」
夏が補足し、ゆきは顎に手を添えて考えている。
「お父さん、一人っ子よ?」
夏にはだいたい話しの筋は読めていたが、口だしする気はない。
春樹がどんな結論を見出したのか、憎しみを昇華できたのか。
興味があった。
自分なら間違いなく、放棄するだろう。
その場しのぎの言葉を紡いで、ゆきを納得させればいいだけだ。
「さっき僕話したでしょ?お墓に来た中国人のこと。」
「うん、あたしも覚えてる、その人が?」
「ゆきちゃんの叔父さん。」
おじいちゃんを切った人が、叔父さん。
混乱する。
唇が言葉を出そうと開きかけ、そのままぐっと引き結ばれた。
「でも、おじいちゃんとは血の繋がりはないんだ。」
叔父さんという呼称からして、おじいちゃんの息子なのに、血の繋がりがない。
「…おばあちゃんの…?」
ゆきはまだ子供だけれど、言うほどもう子供じゃないので、それをもう知っていた。
複雑な人間の繋がりがあるということ。
「そう。おばあちゃんがおじいちゃんと結婚するまえに生まれたんだよ。それで…」
「おばあちゃんは、見捨てたんだ。」
少しの怒気を含んでゆきが言った。
「酷い、おばあちゃんが、悪い。」
「っ、違う!それは違う!そうじゃない。」
「何が違うの?おばあちゃんは、自分の子供を置き去りにしておじいちゃんと結婚して、その子がおじいちゃんを斬ったんだよ?!原因は、おばあちゃんじゃない!おじいちゃんが可愛そう!」
「ゆきちゃん、ちゃんと、思い出して。」
春樹が呼吸を整える。
「おじいちゃんは、あの人にどうしたいって言ったの?斬られた後、病院で、何を渡されたの?ゆきちゃんに、何を頼んだの?」