有料散歩




切羽詰まったように質問を重ねられて、ゆきは上半身をのけ反らせ、後ろに手をついた。


「何を…、」


何を、渡されたんだろう。

おじいちゃんが、ゆきに渡したもの。
叔父さんに対してどうしたかったのか…。


なんだ、
なんだ、
なんだ。


思い出せ、ゆきはぐるぐると記憶の迷路を全力で駆け回る。



おじいちゃん、
教えて。



そして見つけた。

小さな光だ。


それがぶわっと、頭の後ろのほうから、全身を包んだ。


呼び水のように、後から後から繋がっているのは、ゆきにとって辛い思い出。


けれども、おじいちゃんと重ねた大切な記憶。


新しく重ねることはもう叶わないのだから、これからは絶対に手放すものか。



それにしても…。


「どうして忘れてたのかな…、」

「思い出した?」

春樹の綺麗な顔が迫る。

のけ反っていた体制を戻して、ゆきはきちんと座り直した。

「うん、思い出した。」

「全部?」

「うん。」



込み上げてくるのは、よく解らない感情と涙。

泣きたい気持ちを抑えて、ゆきは言った。







「あのね、たんざくを渡されたのよ。七夕の。」


芳郎の瞳を借りて見上げた天の川が思い起こされる。

「難しい、読めない言葉…、あれは漢字だったのね。おじいちゃんがあたしに渡して、おばあちゃんのお墓に持って行ってって。」


「それで?」


「うんと、でも短冊って笹に飾るものでしょう?だからあたしお家の笹飾りに…、」


「うん、」


「そのあとは…、わからない。そのままにしちゃったから、捨てられちゃったかも…」


「そんな…、」


そこには大切な事が書かれていたはずだった。


芳郎の切なる願い。




< 125 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop