有料散歩
「でも、繋がってきたよ。」
春樹は落胆を打ち払い、明るい声で言った。
「あたしも、繋がってきた。」
二人が頷き合う横で、夏もまた頷く。
「キーワードが牡丹だったわけだな。うん。」
「…そうね…、うん、そう。あたしが牡丹を嫌いになったのはあの時だったもの。あんまりにも綺麗で怖くて、見てはいけないものみたいに思ったの。」
「そしておじいちゃんにとっては幸福と後悔の花だったんだね。同じものの中に違う二つの意味があったんだ。」
「そんで、その叔父さんにとっては、懐かしさと憎しみの花、ってとこ?春樹くん?」
「うん、そうだね。それで、おじいちゃんにとっての幸福は、ゆきちゃんが居たからそれはいいんだ。叔父さんにとっても、ゆきちゃんに会えた時、懐かしさは満たされたんだよ。でも、それで残ったのは…、」
「後悔と、憎しみ?」
ゆきが悲しい顔をする。
「そう、それと、畏れ。」
「なんか暗いものだけ残ったね。」
夏が苦笑する。
「そんなこと、ないよ。」
春樹がきっぱりと言った。何故、と聞き返す夏にまっすぐに向かう視線。
「ちゃんと幸福が残ってる。ゆきちゃんがいるもん。」
「どういうこと?」
「後悔も憎しみも、どうやったって消えないんだよ。だけど、幸福で包んでしまえば違うものになるんだ。」
「昇華?」
「あははっ、そうそう。」
「でもどうするんだ?」
「うん、それなんだけどね…」
困ったように微笑む春樹。
「おじいちゃん、これを渡したかったんだよね。」
これ、とは。
そう、明花の写真と遺骨。
「でもどこにいるか、わからないんだ。だからどうやったら渡せるか…、」
「…居るとすれば、やっばり中国?」
「うん、きっとね。」
「おじいちゃんは、どうやって渡そうと思ってたのかしら?」
「それが、短冊に書いてあったはずなんだけど…、」
それを聞いて、ゆきがしゅんとうなだれた。
「まぁ、ね。ゆきちゃん小さかったし。過ぎたことはしょうがないさ。」