有料散歩
第十章*約束の行方
五月晴れ。
澄んだ青空に流れる風。
雲間を行くその風の流れはゆるやかで、春樹のゆったりとした足並みに揃う。
風と共に散歩をする春樹の瞳は、空の彼方を映し出そうとしていた。
丸坊主だった小さな山はすっかり表情を変えている。
萌える緑が、生き生きとしている。
春も半ばだ。
太陽の眩しさは真上から降り注いでいる。
つまり、もうじき夏の呼ぶ声が響くだろう。
「はーるきくーん!!」
ほら、予想通り。
お昼ご飯が出来上がるまでのつかの間、春樹は外の空気を吸いたくて出ていた。
家の周りをゆっくりと歩き、空の青と山の緑のコントラストに見入っていたのだ。
「ごーはんーだよー!!」
「うん、今行く。」
きっと夏には届かないだろうというくらいの声で返事をしたのだが、それきり夏の呼び声は途絶えた。
聞こえた、のだろうか。
春樹の返事よりも遥かに大きな声で小鳥が謡っている。
のどかな時間が山を、春樹を、ここにあるすべてのものを包んでいた。