有料散歩
あれからゆきは、母親との約束どおりに2週間をここで過ごして帰って行った。
ゆきが帰る前の日、牡丹は鮮やかに花を咲かせた。そのあまりの見事な姿に、ゆきは涙ぐんだほどだ。
春樹もつられて泣いた。
おじいちゃんの思い出で見たそのままの牡丹の花。赤紫の大きな花弁がいくつも重なって、王者然とした姿はまさしく百花の王だった。
「春、夏、どうもありがとう。」
ゆきが帰り際、ふんわりと笑った。
「…、僕も、ありがとう。」
「え?」
「ゆきちゃんと…、おじいちゃんのおかげで、解った事があるから。」
「解ったこと?」
「うん。まだ上手く言葉にはできないんだけど、なんとなく、解ったんだ。」
「どんなこと…か、聞いてもいい?」
遠慮がちに、でもまっすぐな視線を投げ掛けたゆきに、春樹は微笑んだ。
「悔しいって気持ち。」
「くや、しい?」
「そう。あと、悲しい、嬉しい、楽しい、苦しい、愛しい…、他にもいろいろ。」
言いながら、春樹が指を折る。
そして、その手を合わせて祈るようにした。
ゆきが黙ってそれを見ている。
「僕も悔しいんだ。」
「どうして…?」
「生きてるからだよ。」
「そう、」
ゆきが首を傾けて笑う。
「じゃあ、あたしも悔しい。」
「どうして?」
「生きてるから。」
二人同時に声を上げて笑ったので、夏とゆきの母親弥生が顔を見合わせた。