有料散歩
「人も、思い出をいっぱい詰めたら…、あんな優しい匂いになるのかなぁ。」
春樹が呟いた言葉を夏は聞き逃さなかった。
「あ、じゃあ詰め込んでみようか。」
「え。」
にんまりと笑う夏に、今までは感じなかった恐怖がまとわりついた。
「えぇ。どういうこと。」
訝しむ春樹に向き直った夏は、さらに目を細める。
にんまりというより、
にやり、
といやらしいような。
「思い出、詰め込んでみるってこと。」
「どうやって。」
「ちょこっと拝借するんだよ。」
「…なにを。」
「だから、思い出!」
「はぁっ?」
わけが解らない。
やっぱりなんだかやっかいな人だ、と思っている春樹の肩に手を置いて、
「大丈夫、問題ない。
最初はお試しってことで無料だ!」
パチンっと顔の前で指を鳴らされた。
視界が歪む。
膝の力が抜ける。
胸が苦しい…
薬…
飲まなくちゃ…
……
……………
……………………