有料散歩
「それは…、ゆきちゃん自身だね。おばあちゃんによく似たゆきちゃん。」
「うん。」
自分のしてきたことが間違いだったかもしれないと、後悔を抱く芳郎の胸を暖かくした存在。
そんなことないよと、優しい優しい言葉をかけてもらったような。
ほら、離れていたって繋がっているじゃないか、安心してね、と。
「あたし、おばあちゃんに、あの…
おじさんに、似てて良かったぁ。」
ふんわりと笑いながら、ゆきは自分の頬に手をあてた。その指先でこっそりと拭った涙を、春樹は見逃さなかったが、何も言わなかった。
「ゆき、行くわよ。」
「はぁい、ママ。」
帰りの車に乗りかけて、今一度ゆきが振り向いて微笑む。
「またね、春。」
「うん、またね。」
「また会おうな、ゆきちゃん。」
春樹と夏が返事をすると、ゆきはドアを閉めた。そしてすぐに窓が開く。
つい今しがた見せていた微笑みが再び顔を出すだろうと思っていた二人だったが、ゆきの表情はそうではなかった。
「…ゆきちゃ、」
声をかけようとした春樹が言葉を探しあぐねていると、ゆきはふんわりと笑って言った。
「あのね、春!あたしちゃんと、おじさんにおばあちゃんを渡してくるね!それで…、幸福の花をおじいちゃんに供えるの!」
「…うん、うんそうだね。」
車の横を駆け足で追いかける。
「…手紙書くね!」
「返事、書くよ!」
舗装のされていない凸凹道。雨の後にはぬかるむその道を、ゆきを乗せた車が揺れながら下っていく。
穏やかな風が、まるで先導するかのように道を抜けていく。木々の葉をゆらしながら、木漏れ日のにおいを纏って。