有料散歩



もしかしたら、自分と同じ姿のものを、食べる。
共食い。よく考えれば残酷な気がするが、それはそれ。と夏は言った。


「あれを食べて飲み込めば、どうなるか…。春樹くんはもう解るだろ?」

「うん、思い出の中に入るっていうのかな…、取り込まれるっていう感じ。」

「そ。思い出に浸ってれば腹が空いたと感じなくなるし、なにより心地良かったんだ。光の粒以外を見ることができたから。」

「…寂しかったの?」

「寂しい…?…違うな。あの頃の俺は寂しいっていう感情を知らなかったから。ただ、切ない。それだけだった気がする。思い出を食べる以外どうしようもなくて、その思い出も…変えようのない過去のものだ。俺はそれを覗き見るだけ。今も、あれを食えば切なくなるしな。」


切ない…。

夏が初めて春樹に告げた自分の感情。
思い出は、切ない。


そうだろうか、と春樹は思う。

思い出は、温かくて、悔しい。
それが春樹の見解だったから。




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