有料散歩
第二章*思い出の蔵
………………
……………
………
…
意識を失ったと思った春樹だったが、思いのほか頭は冴えていた。どうやら胸も苦しくない。
つぶってしまった目をそっと開いた。
「…わあっ!」
目の前には心配そうな夏の顔があった。覆いかぶさるようにして、春樹の胸のあたりを撫でていた。
「あー…よかった。心臓止まったかと思った。」
「…。」
自分でも止まったかと思ったが、不安に襲われていることが春樹の常識。それほど取り乱さずに、脈打つ体の血管を感じ取り安堵の息をついた。
「動悸はないかな。大きく呼吸してたから、酸素足りてるかな。」
「うん、苦しくはない。」
夏が春樹の脇に手を添える。
「…体起こした方が楽だろ。よっこい、せっ!」
どうやら意識こそ失わなかったものの、春樹は倒れてしまったらしい。
抱き起こされた春樹は、なんだか恥ずかしくてうつむいた。
とたんに足がすくむ。
足元は、山の中の腐葉土の絨毯ではなく、まるで宇宙空間のようだったのだ。
浮いているような、ガラスの上に立っているような不安定感。
吸い込まれそうな闇。
その中にぽつりぽつりと星屑のような光。
落ちようと思えばどこまでも永遠に降下してしまいそうだ。
ぞっとした春樹は、
とっさに夏にしがみついた。