有料散歩
「そうなの?家族皆が思い出を食べるわけじゃないんだ?」
「いや、皆同じ宿命を持ってたよ。掃除屋のな。」
「じゃあ、どうして?」
「ああ、俺もどうしてだろうって不思議だった。」
そこで夏は声音を落とした。
「ある日、俺が小学6年生だった時、答えが解った。…今もあんまり考えたくないんだけどな、俺の祖母が亡くなったんだ。火葬して葬式をして、墓に入れて…。そこまでは普通だったのに、その後、家族と内輪の親戚が集まってなにやら相談してる。俺は興味本意でその輪に加わったわけ。そして連れていかれた。」
ごくん、と春樹が喉を鳴らす。
「そこは、なんてことない思い出の蔵だった。」
「…なぁんだ。」
夏があまりにも仰々しく話すから、春樹は息を殺して聞いていたのだ。
けれども、その場所を既に知っている春樹にとっては拍子抜け。
夏が春樹の様子を見て、軽く頷いた。同意という意味ではなく、続きがあるのだと無言で諭す。
「ただな、その思い出の蔵には、光の粒がひとつもなかった。」
「えっ?!」
「ひとつも、だ。」
春樹が知っているそこには、無数に光の粒が漂っていた。数える事などできないほどに。
「…なんで?」
夏が再び頷く。
今度ははっきりと同意の意思を表した。
「なんで。そう、俺も驚いた。だから隣に並ぶ母親に聞いたわけだよ。なんで、ってな。そしたら母親がこう言った。ここは祖母の蔵だから、と。」
言葉を切って、夏は目を閉じた。何故だか辛そうだ。
「実は思い出の蔵はいくつもあって、ひとつの蔵に掃除屋はひとり。そういう創りになってた。だから俺の蔵は俺だけの蔵なんだ。その事実もショッキングだったけど…、その後に起こったことが…、」
不快感を隠しもしないで、夏の顔が歪む。
「…夏くん?あの、…話しずらかったらいいんだよ…?」
「いや、いいんだ。春樹くんには向き合うって決めてるから。」